
家族信託は、契約の締結だけで完了するものではありません。契約に基づき、信託財産の名義変更などの実務的な手続きを行うことで、初めて信託が効力を持ち、財産の管理・運用・処分が可能となります。以下に、信託開始後に行う各種手続きについて詳しくご説明します。
① 不動産の名義変更手続き
信託契約締結後、不動産については以下の登記手続きを行います。
- 所有権移転登記(委託者 → 受託者)
- 信託登記(信託の内容を登記簿に記載)
これにより、法務局の登記簿「権利部(甲区)」に、以下のような内容が記載されます。
【登記簿記載例(抜粋)】
権利部(甲区) 所有権に関する事項
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日 | 原因 | 権利者・その他の事項 |
---|---|---|---|---|
1 | 所有権移転 | 平成5年〇月〇日 | 売買 | 所有者:東京都中野区〇〇〇〇〇〇 |
2 | 所有権移転・信託 | 平成30年〇月〇日 | 信託(平成30年〇月〇日) | 受託者:東京都中野区〇〇〇〇〇〇 信託目録番号 第00号 |
② 金融資産・上場株式の取り扱い
金銭や家賃収入、上場株式などの金融資産は、信託用口座を作成して受託者が管理します。信託口口座の名称は以下のようになります:
「委託者〇〇 受託者〇〇 信託口」
この信託口座に、家賃収入や預貯金などの信託財産を移動し、受託者が契約に従って管理・運用・支出等を行います。
口座開設の注意点
信託口口座が開設できる金融機関は限りがあります。三井住友信託銀行、城南信金、西部信金、世田谷信金など(2024年末現在)
受託者死亡により、凍結する信託口口座があるため、口座開設前には、受託者死亡により口座が凍結しないことの確認が必要です。
受託者は信託財産と個人財産を分別管理する義務があります。そのため、受託者名義の金銭管理口座を用意する必要があります。
③ 非上場株式の取り扱い
非上場株式については、以下の手続きが必要です。
- 株主名簿の名義変更
- 決算書(別表2)における株主記載の変更
なお、譲渡制限付き株式については、会社の承認を得て名義変更を行う必要があります。
ここで重要なのは、名義は形式的に受託者に移りますが、経済的価値(課税対象)は受益者に帰属します。また、実質的な所有者としての処分権限は受託者にあります。これは、株主と会社の関係に類似しています。
信託目録の登記記載内容の例
信託登記では、登記簿に「信託目録」が作成され、以下のような情報が記載されます。
【信託目録 第00号】
項目 | 記載内容例 |
---|---|
1. 委託者に関する事項 | 委託者:〇〇〇〇(住所・氏名) |
2. 受託者に関する事項 | 受託者:〇〇〇〇(住所・氏名) |
3. 受益者に関する事項 | 受益者:〇〇〇〇(住所・氏名) |
4. 信託の目的 | 本信託は、委託者の健康状態に変化が生じた場合にも、 財産の適正な管理・運用・処分を継続し、 受益者の生活・介護・納税資金の支出、住環境の整備などを通じて、安心して生活できる環境を維持するとともに、 次世代への円滑な資産承継を実現することを目的とする。 |
5. 信託財産の管理方法 | ① 受託者は信託不動産を第三者に賃貸することができる。 ② 受託者は必要に応じて不動産を売却・購入することができる。 ③ 信託目的に照らして相当であれば、信託財産に建物を建設することができる。 |
6. 信託終了事由 | 委託者〇〇が死亡したとき |
7. その他の条項 | ① 受益者の承諾がない限り、受益権の譲渡・相続・差押等はできない。 ② 受託者と受益者の合意があれば、信託の目的に反しない範囲で契約内容の変更が可能。 ③ 信託終了時の残余財産は、受託者〇〇に帰属する。 |
補足事項:信託財産の名義変更と税務
信託契約に基づき財産の名義が受託者に移転しても、
- 委託者=受益者の関係である限り、
- 贈与税・譲渡所得税・所得税は原則課税されません。
これは、実質的な経済的利益が委託者に留まるためです。
まとめ
以上のように、家族信託は契約書を作成すれば完了するものではなく、実際の名義変更や信託口口座の開設など、具体的な手続きを適切に行ってはじめて実効性を持つ制度です。信託財産の種類や構成によって必要な手続きも異なるため、専門家の助言を受けながら、確実に準備・対応を進めることが重要です。
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